「ねえ誠さん、大変! ママ友のLINEで『11月1日が勝負よ』って話題になってるわ。
まだ5月なのに、そんなに前から準備しなきゃいけないの?」
日曜日の朝。恵がスマホを握りしめて、トーストを焼く誠の背中に詰め寄った。
誠は冷静に皿を並べながら答えた。
「それは『幼稚園』の話だね。でも、うちは共働きだから『保育園』が第一候補だろう?
だとしたら、スケジュールも手続きも、全く別のゲームに参加することになるんだよ」
「別のゲーム? 同じ『子供を預ける場所』なのに?」
誠は朝食のテーブルにタブレットを置き、画面を二分割して表示させた。
「いいかい、恵。多くの親がここを混同して失敗する。
保育園と幼稚園は、そもそも『管轄』も『目的』も、そして『誰が入園を決めるか』が根本的に違うんだ」
誠は左側の【保育園】と書かれたエリアを指差した。
「まず保育園。ここは【福祉】の施設だ。目的は『親が働いていて家庭で保育できないから、代わりに預かること』。
だから、入園できるかどうかを決めるのは、園長先生じゃない」
「えっ? 園長先生じゃないの?」
「違う。決めるのは【市役所(自治体)】だ。
【例え話】をしよう。保育園の入園枠は、限定商品の『整理券』のようなものだ。
市役所は希望者全員に『点数(ランク)』をつける。
フルタイムなら何点、祖父母が遠方ならプラス何点……。
そして、点数が高い順に、市役所が機械的に園を割り振っていくんだ」
恵は絶句した。
「……自分たちで選べない可能性があるってこと?」
「その通り。一方の【幼稚園】は【教育】の施設だ」
誠は右側のエリアを指した。
「こっちはシンプル。入園を決めるのは【園そのもの】。
11月1日に一斉に願書を出して、面接を受け、園側が『この家庭ならうちの方針に合う』と判断すれば合格だ。
契約は『親 vs 市役所』じゃなく、『親 vs 園』の直接契約になる」
「じゃあ、11月1日に向けて準備すればいいのね!」
「そこが最大の罠だ。一番の問題は【時期】のズレなんだよ」
誠はカレンダーアプリを開いた。
「幼稚園の合否が出るのは【11月初旬】。
でも、保育園の申し込みは【11月〜12月】で、結果が出るのは【翌年の2月】だ」
恵がハッとした顔をする。
「そう。もし『保育園に落ちたから、やっぱり幼稚園にしよう』と2月に思っても、その頃には幼稚園の枠はすべて埋まっている。
この【制度のねじれ】を知らずに、2月の保育園結果だけを待っていると、4月に行き場を失う『保活浪人』になるリスクがあるんだよ」
恵は、すやすやとリビングのカーペットでお昼寝をしている葵を見た。
「……恐ろしいわね。11月1日に幼稚園を決めてしまうか、それとも2月まで保育園の結果を信じて待つか。
どちらにせよ、今から戦略を立てなきゃいけないってことね」
「その通り。まずは自分たちの【持ち点】を計算しに、週明けにでも市役所へ行ってみようか」
