いい匂い……。
給食室の前を通ると、出汁の優しい香りが漂ってきました。
案内役の先生が、誇らしげに調理室を指差します。
「当園は自園調理にこだわっています。栄養士が献立を作り、旬の食材を使って毎日ここで手作りしているんですよ。アレルギーをお持ちのお子さまへの除去食や代替食も、一人ひとりに合わせて細かく対応しています」
「個別に対応していただけるのは心強いですね」
恵が少し安心した表情を見せました。
誠は、調理室の入り口に貼られた色とりどりのカードに目を留め、管理体制について質問をしました。
「アレルギー対応で一番怖いのは取り違えだと思います。こちらの園では、具体的にどのような手順でミスを防いでいるのでしょうか」
「調理担当とクラス担任による二重チェックはもちろん、専用のトレイと色違いの食器を使い、お子さまの顔写真とアレルギー情報を記載したカードを必ず添えて配膳しています。最後は、園長も加わって確認を行う徹底した体制をとっています」
見学を終えた帰り道、二人は食の安全という最も神経を使う問題について話し合いました。
「あんなに丁寧にカードで管理されているのを見ると安心するわ。でも、もし万が一のことがあったらと思うと、親としてどこまで園を信じていいのか、正直迷う部分もあるわね」
恵が親としての切実な不安を口にします。
誠は、リスク管理の観点から答えました。
「園によって対応は様々だね。完全に同じメニューで特定原材料だけを抜くところもあれば、代替品を家から持参してほしいという園もある。大切なのは、園がどこまで責任を持って、どう守ってくれるかの境界線が明確かどうかだね」
その夜、誠は思考を整理しました。
「アレルギー対応は、いわば高度なセキュリティシステムと同じだ」
「【例え話】をしよう。
これはオートロックの性能と住人の意識の関係に似ている。
どんなに立派な鍵というマニュアルがあっても、それを使う人である先生が開けっぱなしにしてしまえば意味がない。
本当の安全は、マニュアルの完璧さだけじゃなく、先生たちがどれだけ一人ひとりの命を自分事として捉え、緊張感を持って日々向き合ってくれているかという誠実さの積み重ねでできているんだよ」
恵は、園長先生が「毎日、命をお預かりしている意識でいます」と語った時の真剣な眼差しを思い出しました。
「そうね。システムが立派なのはもちろんだけど、私たちが本当に見極めるべきは、先生たちとどれだけ信頼の対話ができるか、なのかもしれないわね」
二人は、単に「対応の可否」だけでなく、ミスを防ごうとする園の姿勢と、親とのコミュニケーションの深さを、園選びの重要な評価基準に加えました。
