園の廊下には、昨年の運動会や発表会の写真が所狭しと並んでいた。
子供たちの弾けるような笑顔と、それを見守る保護者たちの姿。恵は「楽しそう、葵もいつかあんな風に……」と想像を膨らませる。
誠は掲示されている年間行事予定表を見ながら、園長先生に具体的な運用を尋ねた。
「行事がとても充実していますね。これらは基本的に土日開催でしょうか? また、保護者が準備から関わるような出番はどのくらいありますか?」
「うちは伝統的に『親子の触れ合い』を大切にしていまして、大きな行事は土曜日ですが、平日の午後に参観日や保護者会を設けることもあります。役員会も月に一度、夕方に集まっていただいていますね」
「平日の午後や夕方の集まりもあるのですね。共働きのご家庭はどう調整されているんでしょうか」
「皆さん、お仕事をやりくりして参加してくださっていますよ。大変ですが、親御さん同士の絆も深まります」
その夜。誠はいつものようにホワイトボードの前に立ち、見学した園と、ネットで調べた「行事の少ない園」を比較した。
「今日見学した園は【地域交流・コミュニティ重視型】だね。行事を通じて園の様子がよく分かるし、ママ友やパパ友もできやすい。
一方で、最近は【ビジネス・サポート重視型】の園もある。大きな行事は年に1〜2回、土曜日のみ。平日の呼び出しはほぼゼロ。親の負担を最小限にするという方針だ」
恵がスケジュール帳をめくりながら溜息をつく。
「月一回の平日の集まりか……。私の職場だと、毎月休みを取るのは結構ハードルが高いかも。でも、葵が頑張っている姿を見逃したくないっていう気持ちもあるし」
誠は穏やかな口調で、一つの考え方を提示した。
「【例え話】をしよう。
行事の多い園は『参加型のライブ会場』だ。一体感があって感動も大きいけれど、そこに行くまでの準備や移動(時間)が必要になる。
行事の少ない園は『オンデマンド配信』に近いかな。自分のペースで仕事に集中できるけれど、園のコミュニティに深く入り込む機会は少ないかもしれない」
誠は恵の目を見て続けた。
「これは、僕たちが【園とどういう距離感で付き合いたいか】という選択だ。
『子供の園生活を隅々まで一緒に作り上げたい』と思うか、
『園にはプロとして保育を任せ、自分たちは仕事で葵の生活を支えることに専念したい』と思うか。
どちらも立派な親の在り方だよ」
恵は葵の寝顔を見つめ、少しずつ自分の答えを探し始めた。
「私は、行事には全部出たい。でも、それが義務になって仕事で評価を下げるのは葵のためにならない……。自分たちにとって『無理のない参加頻度』を、もう一度冷静に見極めてみよう」
二人は、理想の教育内容と同じくらい、自分たちの「働き方」と「園のペース」が噛み合うかどうかを重視するようになった。
