夜のリビング、誠と恵はこれまでの見学メモを広げた。
「誠さん、今日までの話をまとめると、一斉保育は『社会性という筋力』を鍛えてくれて、自由保育は『主体性というエンジン』を育てる……どっちも葵にとって必要に思えてきちゃった」
恵が少し困ったように笑う。
誠は頷き、ホワイトボードに一つの長い「目盛り(スケール)」を描いた。
「そうだね、恵。実は『100%一斉』や『100%自由』という園は珍しいんだ。
多くの園はその中間……つまり、一日のスケジュールの中で【一斉活動】と【自由遊び】を組み合わせて運営している。
大切なのは『どっちが正しいか』ではなく、その園がどちらに【比重】を置いているか、というバランスなんだ」
誠は目盛りの両端を指差しながら続けた。
「【例え話】をしよう。
これは『サプリメントの配合』に似ているね。
規律(一斉)を多めに摂ることで安心する子もいれば、自由を多めに摂ることで才能が開花する子もいる。
葵は、自分の世界に没頭すると周りが見えなくなるタイプだけど、同時に『みんなで何かをする』ことにも喜びを感じ始めている。
今の葵にとって、少しだけ背中を押してくれる『規律』と、思う存分深掘りできる『自由』、その【配合比率】が一番心地よい園はどこだろう?」
恵は葵がカスタネットを楽しそうに叩いていた姿と、泥んこで樋(とい)を繋いでいた真剣な顔を思い出した。
「……そうか。極端にどちらかに振れている園を探すんじゃなくて、
『午前中はしっかり一斉活動、午後はのびのび自由時間』といった、
葵の気質に合った【バランスのよい園】を探せばいいのね」
「その通り。園長先生に『一日のうち、子供が自分で活動を選べる時間はどれくらいありますか?』と聞けば、その園の本当の比重が見えてくるはずだよ」
二人の「園選び」の視点は、単なる手法の比較から、葵という個性に合わせた「環境のデザイン」へと進化した。
