「知識教育に思考教育、そして非日常の体験……。どれも先生の話を聞くと納得しちゃうけど、詰め込みすぎも心配だし、バランスが難しいわね」
恵がリビングで、3つの園のパンフレットを前に頭を抱えた。
誠は、ホワイトボードに大きく「成長の3要素」と書き込み、これまでの先生たちの言葉を整理し始めた。
「恵、これらはバラバラに存在するんじゃなくて、お互いに補い合う関係なんだ。
【例え話】をしよう。
『知識』は、世界を歩くための【パスポート(道具)】だ。文字や数字を知ることで、子供は自分で情報を掴めるようになる。
『思考』は、未知の道を進むための【コンパス(技術)】だ。答えのない問題にぶつかっても、自分で考えて解決策を見出す力だね。
そして『体験』は、新しい景色を見ようとする【情操(情熱)】だ。本物に触れて感動するからこそ、『もっと知りたい』『やってみたい』というエネルギーが生まれる」
「なるほど……。道具(知識)があっても使いかた(思考)がわからないとダメだし、そもそも外に出たいという情熱(体験)がないと、道具も宝の持ち腐れになっちゃうのね」
恵の顔に、ようやく納得の色が浮かんだ。
誠はさらに、現実的な「園選び」の視点を加えた。
「大事なのは、この3つの『配合比率』だね。
例えば、学習系の園なら【知識】というパスポートをしっかり持たせてくれる。
一方で、自由保育系の園は【思考】というコンパスを磨く時間を優先するかもしれない。
葵の今の様子はどうかな?
何かに没頭して『なぜ?』と考えるのが好きなら、思考力をさらに伸ばす園がいいかもしれないし、
本物の稲や楽器を見て瞳を輝かせるタイプなら、体験重視の園が葵の『窓』を広げてくれるはずだ」
恵は葵が寝言で「おっきいお船、いたねぇ」と笑っていたのを思い出した。
「葵はきっと、本物に触れるとパワーが湧いてくるタイプだわ。少し『体験』の比重が多めで、そこから『なぜ?』を引き出してくれる園が、今のあの子にはぴったりかも」
二人の「教育編」の旅は、単なるスペックの比較ではなく、葵という一人の人間が、どうすれば一番ワクワクしながら未来を切り拓けるか、という「わが子だけの配合」を見つける作業へと着地した。
