入園の手続きを終えた数日後。
恵は、街中で「選ばなかった方のA園」のバッグを持った親子を見かけ、胸が少しチクリとした。
「……ねぇ誠さん。あっちの園の方がやっぱり楽だったかな、とか、葵にとって本当にB園がベストだったのかなって、時々不安になっちゃうの」
誠は、コーヒーを飲みながら恵の話を静かに聞いた。
「無理もないよ。あんなに真剣に選んだんだから、選ばなかった方の魅力がまぶしく見えることもあるよね。
でもね、恵。【例え話】をしよう。
園選びは『旅行の行き先』を決めるのに似ている。
ハワイ(B園)に行くか、北海道(A園)に行くか。どちらにも良さがあって、どちらを選んでも正解なんだ。
大事なのは、ハワイに決めた後に『北海道の方がカニが美味しかったかも』と後悔し続けることじゃない。
到着したハワイで、いかに楽しく過ごし、家族でどんな思い出を作るか。その『過ごし方』こそが、その旅を最高のもの(正解)にするんだよ」
恵は、誠の言葉を自分の中に落とし込むように、ゆっくりと頷いた。
「そうか……。どっちが正解かを探し続けるんじゃなくて、選んだ場所で、葵が楽しく過ごせるように私たちがサポートしていく。その努力こそが、私たちの『決断』を正解に変えていくのね」
誠は優しく続けた。
「100点の園を探すのは難しいけれど、選んだ園を親子で100点にしていくことはできる。
もし葵が壁にぶつかったら、一緒に考えればいい。園の先生と協力して、葵にとってのベストを探り続ければいい。
僕たちが『ここで良かったんだ』と笑っていれば、葵も安心してその場所を自分の居場所にできるはずだよ」
恵は、バッグの中に大切にしまわれたB園の入園許可証に触れた。
「そうね。迷うのはもうおしまい! 私たちの選んだ道を、最高の正解にしていきましょう」
二人の心から、最後のもやが晴れた。
それは、選んだ環境を信じ、わが子の育つ力を信じるという「親としての覚悟」が決まった瞬間だった。
