入園から3ヶ月。
葵は元気に通っているものの、時々「今日は行きたくない」とぐずったり、泥遊びで服を汚して帰ってくる毎日に、恵は少し疲れを感じていた。
「誠さん、あんなに悩んで選んだB園だけど、やっぱり送り迎えは大変だし、葵も疲れているみたい。もっと楽な道があったのかも……って、つい考えちゃうの」
誠は、葵が園から持ち帰った「連絡帳」を読みながら、恵に温かいお茶を差し出した。
「恵、無理もないよ。理想の園を選んだからといって、毎日が100点満点になるわけじゃない。
【例え話】をしよう。
園は『自動販売機』ではなく、『共同の菜園(ガーデン)』なんだ。
お金(授業料)を払えば、自動的に完璧な果実(教育成果)が出てくるわけじゃない。
僕たち親と、園の先生が一緒に土を耕し、水をやり、時には害虫(トラブル)を駆除して、ようやく葵という花が育っていく。
今の『大変さ』は、葵が新しい環境に根を張ろうとしている証拠だよ」
恵は、連絡帳にびっしりと書かれた先生からのコメントに目を落とした。
『今日は葵ちゃん、お友達と意見がぶつかりましたが、自分なりに理由を説明しようと頑張っていましたよ』
「……本当ね。私が家で見ていないところで、葵は葵なりに、この園の『思考教育』の中で戦っているんだわ」
誠は頷いた。
「そう。僕たちの仕事は、園を評価することじゃなく、園と『チーム』になることだ。
葵の様子で気になることがあれば、すぐに先生に相談して、一緒に解決策を考える。
そうやって園との信頼関係を築いていくプロセスこそが、この園を選んだ僕たちの『正解』を形にしていくんだ」
恵は、明日先生に伝えたい「葵の頑張り」をメモしながら、心が軽くなるのを感じた。
「園にお任せするんじゃなくて、一緒に育てていく。そう思えば、毎日の泥だらけの服も、葵が一生懸命生きてる証拠として愛おしく思えるわ」
二人は、園を「利用する場所」から「共に歩むパートナー」へと捉え直し、新しい日常を一歩ずつ楽しみ始めた。
